
つくり直すのではなく、受け継ぐ。
東京タワーのTOWER GALLERYで開催されている「VOICE OF EARTH展」。静かな照明に包まれた会場には、かつて誰かが身につけていた衣服と、そこから生まれた新しいプロダクトが並んでいる。世界の舞台で戦ったアスリートのユニフォーム。ステージを彩った衣装。ものづくりの過程で生まれた余り生地。それぞれに異なる時間を過ごしてきた素材が、ここでは新たな役割を与えられている。
このプロジェクトを手がけるのは、ファッションブランド「TATRAS(タトラス)」の創業者であり、現在はSEEKER CREATIVE STUDIOの代表を務める坂尾正中氏だ。長年ファッションの世界でものづくりに携わってきた坂尾氏が、新たに立ち上げたブランド「SUBJECT.」。その出発点にあるのは、まだ価値のある素材が捨てられていくことへの疑問だった。その役目を終えたものにはまだ可能性がある。その可能性を見いだし、新たな価値を与えること。坂尾氏は、そんな思いをSUBJECT.というブランドに込めている。
そして、そのものづくりを支えるのが、豊岡、倉敷、津山の職人たちだ。使われてきた素材には、それぞれに異なる表情がある。その個性を消して均一なものにするのではなく、素材が持つ背景を生かしながら、新しい形を与えていく。職人の技術とは、単に美しいものをつくるためだけにあるのではない。目の前の素材を理解し、その可能性を見つけ出すこと。そこにも、ものづくりの豊かさがあるのだろう。
では、今回参加した5人は、なぜその素材を選び、何をつくろうと考えたのだろうか。そして職人たちは、それぞれの思いをどのように形にしていったのだろう。坂尾氏がプロデューサーを務めるドキュメンタリー「VOICE OF EARTH」では、その過程を映像で追っている。完成したものだけでは知ることのできない、素材と人との関係。展示されたプロダクトの背景には、もう一つの物語がある。
素材に残された、時間の痕跡。環境への配慮が求められる時代、アップサイクルという言葉を耳にする機会は増えた。しかし、今回の展示から感じられるのは、環境問題に対する一つの解決策という側面だけではない。
今回のプロジェクトに参加したのは、阿部進之介、髙木菜那、髙木美帆、安井謙太郎、畑野ひろ子の5人。余った生地、走り終えたユニフォーム、ステージを終えた衣装。それらが形を変え、日常の中で使われるものになっている。そこには素材そのものの価値だけではなく、持ち主とともに過ごした時間が残されている。新品の生地から同じ形のものをつくることはできるかもしれない。けれど、そこに刻まれた時間まで再現することはできない。
ものに宿る記憶や、それをつくる人の技術、そして使う人の思い。それらをつなぎ直すことで、ものは再び誰かに必要とされる存在になる。かつて誰かの大切な時間をともに過ごしたものが、再び誰かの暮らしへとつながっていく。その新しい姿が生まれるまでには、どんな思いや選択があったのだろう。5人が素材に託した思い。そして、その思いを形にする職人たち。展示されたプロダクトの向こう側には、まだ知らない物語がある。その一つひとつを追ったドキュメンタリー「VOICE OF EARTH」。ものが生まれ変わるまでの物語を、ぜひ映像で見届けてほしい。
text_Ikuo Anzai
VOICE OF EARTH展
会期:2026年10月6日(火)〜18日(日)
会場:東京タワー TOWER GALLERY
東京都港区芝公園4-2-8
プロデューサー:坂尾正中(SUBJECT. ファウンダー/TATRAS 創業者)
ドキュメンタリー:VOICE OF EARTH
SUBJECT.公式サイト:https://subject-creation.com/



