Echo of Memories Exhibition by Nir Hod


 

ニール・ホッド《The Love Story of Young Helena》2022

想像力によってネガティブな歴史を美しいナラティブとして


イスラエル出身で現在ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、ニール・ホッド(Nir Hod, 1970年)による個展「Echo of Memories」がKOTARO NUKAGA(六本木)にて開催。本展は、ホッドの代表作であるクローム絵画のシリーズ The Life We Left Behind からの新作と、ファウンドフォトをベースに新たなイメージとして作り上げられたモノクローム絵画の新作によって構成されている。

芸術は包摂と排除のネットワークを構築、あるいは修正する可能性を持ち、一時的にではあったとしても社会的なフィールドを再構築する能力を有す。これはフランスの哲学者、ジャック・ランシエール(Jacques Rancière 1940年) が「感覚的なものの分割=共有」と表現したものにあたる。また、1998 年にニコラ・ブリオー(Nicolas Bourriaud, 1965 年)が『Relational Aesthetics (関係性の美学)』を発表して以降、社会的関係を美学的背景とする芸術が注目されるようになったが、『Relational Aesthetics (関係性の美学)』において忘れてはならないのは、ブリオーが参加型のアーティストについての実践に重点を置いているにもかかわらず「これが伝統的なオブジェクトワークを敬遠するものでもない」と語り、さらには鑑賞者と芸術との関係を「より良い方法で世界に生きる術を学ぶことに関する芸術的実践である」と説明している点にある。

本タイトルにも示された「エコー(Echo)」は、古代ギリシアにおいて、山や谷に向かって発した音の反響を木の妖精であるエーコーが返事したものだと考えたことから、それを「エーコー」と呼んでいたことに由来している。同様に日本においても「こだま」は「木霊」と表記され、樹木に宿る精霊を意味する。洋の東⻄を問わず、人々はこの音が反響し、響く現象に精霊の仕業といったような神秘的な想像力を働かせていたと言えるだろう。


I like to look at tragic events and images and turn them into something beautiful, to make them loveable again. So they can be a part of normal peaceful life. For me different bodies of works complete one big story of art inspired by people and life from different times and different places. (私は、悲惨な出来事の画像を見て、それを美しいものに変え、再び愛すべきものにし、通常の平和な生活の一部にできるようにするのが好きです。私にとって、異なるシリーズの作品たちが一つの大きなアートの物語を完成させ、それは異なる時代、異なる場所の人々や人生からインスピレーションを得るのです) どこか古い写真のもろさを感じさせるモノクロームの絵画にはファウンドフォトによって見つけられた、死や破壊、醜さ、悲しみといった世界に溢れるタブーとされるようなイメージが描かれている。ホッドはそこに創造や美しさ、喜びという(二律背反する)アンチノミーな概念を同居させることで、イメージは清濁併せ持った状態となる。アートは悲しい記憶のエコーを包み込む洞窟となり、死と美の概念の間で響き合わせる。そして、そのエコーの中から人々が想像力によってネガティブな歴史を美しいナラティブとして新たな歴史的なコードを再創造する可能性の扉を開くのだ。 本展覧会においてホッドは、記憶、光と反射、喪失とトラウマ、破壊と再生、そしてそれらが生み出す人の想像力といった概念へのあくなき探求を、絵画というオブジェクトワークの枠を超えて示している。ホッドはアートによって事実ではなく、美を語る。しかし、それはある種の真実でもあるのだ。

 

ニール・ホッド「Echo of Memories」 会期: 2022年7月9日 (土) - 8月27日 (土) 開廊時間: 11:00 - 18:00 (火-土) ※日月祝休廊 会場:KOTARO NUKAGA(六本木) 〒106-0032東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル2F